最近、私が勤める救急科で午前2時頃、私自身と同じ年格好の若い男性患者を担当した時のことです。

その患者は「まるで胸の上に象が乗っているみたいに苦しい」と訴えていましたが、

救急科チームによると差し迫った危険はないとのことでした。初期の検査結果は正常で、心電図検査(EKGまたはECG)ではごく軽度の異常が見られただけでした。

不思議に思った私は、本当に心臓の問題ではないのかと当直医に聞いてみたところ、

「絶対ないです。患者はまだ32歳ですよ」と言うのです。

その答えに納得できなかった私は、その男性を心臓発作患者として慎重に診察し、通常の複合薬を投与したところ、症状が改善し始めました。翌日、ストレス検査を受けた患者は、心臓への血流が低下していることが指摘されました。そこで、直ちにカテーテル検査室に送られ、ステント(血管、気管、食道、大腸など管状の部位を広げる筒状の治療機器)が装着されました。というのも、心臓の主要動脈の一つが閉塞していたためです。この状態は、俗に「未亡人製造機」と呼ばれるほど危険なものです。

‌‌‌‌男性の死因第1位である心疾患

心疾患は長年アメリカ人の死因第1位を占め、発症率は依然として上昇を続けています。そのリスクは女性よりも男性の方がはるかに高く、男性の3~6人に1人が罹患していると言われています。

それだけではありません。男性患者の半数以上は心疾患と診断されるまで無症状ですが、その数にはいわゆる突然死で亡くなる方が含まれていません。では、男性の方が女性よりも心疾患にかかりやすい理由とは一体何なのでしょう。

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‌‌男性の心疾患を引き起こす原因はホルモンにあるのでしょうか。

男女の最も大きな生理的違いはホルモンにあり、エストロゲン、プロゲステロン、テストステロンの濃度が絶えず変動しています。エストロゲンとプロゲステロンは女性に多く、テストステロンは男性に多いホルモンです。これらのホルモンは、性欲を左右するだけでなく、骨密度、エネルギーレベル、筋肉量を調整するといった重要な機能も担っています。

そのうち、テストステロンが果たす役割の一つに、心臓に関するものがあります。テストステロンは、心臓のような適切な器官で血管を弛緩させることができ、心臓の電気的活動においては心臓のカリウムチャネルを安定させる働きがあります。また、心臓発作が発生した場合、テストステロンは心臓へのダメージを抑えるのに役立ちます。

このことから、テストステロンは心臓に良いと考えられます。一方、エストロゲンやプロゲステロンが心臓に悪いかというと、決してそんなことはありません。むしろエストロゲンは、血管の保護をはじめ、コレステロールシグナルを改善したり、動脈の血栓形成リスクを抑える働きがあります。血管、コレステロール、動脈の異常はいずれも心疾患の重要な危険因子です。

では、男性のホルモンの何が問題かというと、その生成過程にあります。性ホルモンが分泌されるには、適切な量の脂質とコレステロールを摂取しなければなりません。これらの脂質は、テストステロン、エストロゲン、プロゲステロンに変換されますが、その生成量は、体内組織、性別、年齢などによって異なります。

‌‌‌‌男性のインスリン抵抗性と心疾患

もう一つ、心臓の健康に関わる重要な要素に脂肪組織(体脂肪)とインスリンの相互作用があります。アメリカでは、平均体脂肪率の上昇に伴い、インスリン抵抗性の割合も増えています。つまり、血液中に高濃度の糖(グルコースすなわちブドウ糖)が常に流入していると、体はそれを抑えようとインスリンを分泌し、グルコースを細胞内に取り込みます。

その結果、細胞は(脂肪に変わる)グルコースでいっぱいになります。例えば、大盛りのパスタをおかわりすると、血糖値は高いままで、膵臓からさらにインスリンが分泌されることになります。このサイクルは組織がインスリン反応に反応しなくなるまで続き、膵臓が消耗され、結果としてインスリン抵抗性になるという仕組みです。

インスリン抵抗性になると、性ホルモンがテストステロンのような善玉ホルモンからコルチゾールのような悪玉のストレスホルモンに変わってしまいます。この変換は 「プレグネノロン・スティール」(エストロゲンのステロイド生成にかかわるプロホルモンであるプレグネノロンの盗用)と呼ばれます。

インスリン抵抗性に「抵抗」する方法

インスリン抵抗性について話すと、それだけで記事になるほど長くなりますが、簡単に言えば、主に野菜から食物繊維を十分に摂ることで抑えることができます。また、GI値(グリセミック指数)として示される、食物が膵臓やインスリン濃度に与える影響も重要です。全体としては、非でんぷん質の野菜のように低GI値(低インスリン反応)の食品を摂取することが大切です。

他にも、高脂質・低炭水化物のケトン食(ケトジェニック・ダイエット)やインターミッテント・ファスティング(断続的断食)を行うことで、エネルギー源を炭水化物からケトン体に切り替えるのも良いでしょう。さらに、ベルベリンなどのサプリメントはインスリン感受性を制御するのに役立ちます。

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‌‌‌‌男性のアロマターゼ化と心疾患

インスリン反応とプレグネノロン・スティール以外にも、お腹の脂肪が多い男性は、アロマターゼという酵素によってテストステロンがエストロゲンに変換されることがあります。必要な酵素とはいえ、腹部脂肪が増えると、アロマターゼの量が急増します。こうしてアロマターゼ化した男性は太りがちで、上記の作用機序を介してインスリン抵抗性を引き起こしやすくなります。

そこで、アロマターゼを阻害することで、正常なテストステロン濃度に戻すのに役立つ食品を挙げてみましょう。

さらに、アロマターゼ阻害作用が期待できる以下のようなサプリメントもあります。

‌‌‌‌コルチゾール、ストレス、心疾患

ではここで、悪玉ホルモンのコルチゾールに話を戻しましょう。コルチゾールの濃度が高いと、インスリン抵抗性が悪化したり体重が増える他、高血圧と心疾患のリスクが高まります。また、コルチゾールは、血管を直接狭め、睡眠やストレス対処能力を妨げてしまいます。男性の心疾患に関して鍵となるのは、ホルモンそのものではなくストレスということになります。

JAMA(Journal of the American Medical Association)誌に掲載された2016年の研究では、心血管疾患を発症したノルウェーの男女のリスク要因が評価されました。男性の心疾患患者の数は女性の2倍でしたが、この研究では、ホルモン濃度の変化は心疾患リスクに影響しないという結論に至りました。従って、問題なのはホルモンそのものではなく、そのホルモンがストレス反応に及ぼす影響であると考えられます。さらなる研究結果を踏まえて、主な要因は男女のストレス反応の違いではないかと示唆されています。つまり、心疾患リスクに対処する余地は私達自身にもあると言えるでしょう。

‌‌ストレスとコルチゾールの影響を管理する方法‌‌

私自身が取り入れ、欠かせない日課となったものにマインドフルネスの実践があります。毎日の瞑想は5分もあれば簡単にできますが、難しいのは「何もしない」という習慣を身につけることです。瞑想が心にプラス効果をもたらすことをさらに証明するために、2017年にはアメリカ心臓協会によりこれまでの研究が分析されました。その結果、瞑想を行うことで血圧とストレスが低下し、禁煙率が高まることが実証されました。

男性の心疾患においてストレス反応が重要な危険因子であることを考慮すると、瞑想が心疾患リスク対策としてかなり有望と言えるでしょう。最近は瞑想に特化したアプリが数多く開発されているため、自宅で気軽に始めてみてはいかがでしょうか。

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他にも、コルチゾールが心臓に及ぼす影響を抑える方法として、睡眠を優先することが挙げられます。瞑想も睡眠を促進しますが、以下のように睡眠の質を高めるためにできることが多数あります。

  • 寝室の温度を15〜20度に保つ
  • 寝室をできるだけ暗くする
  • なるべくブルーライトにさらされないようにする
  • ストレス管理の一環として日記をつける
  • メラトニンL-テアニンGABAマグネシウムなど、リラックス効果のあるサプリメントを摂取する。(注:日本国内のお客様へ:メラトニンを含む製品につきまして、iHerbでは2ヶ月分まで購入が可能です)

まとめ

今回ご紹介した情報が、心臓に不安を抱える方のお役に立てば幸いです。なお、何らかの症状がある場合はすぐに医師の診察を受けることが肝心です。生死に関わる問題がないとも限りません。ホルモンやストレス反応に影響を与えるちょっとした対策を速やかに講じることで、心臓の健康維持につながるでしょう。

参考文献:

  1. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3828782/pdf/jah3-2-e000271.pdf
  2. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1365-2265.2005.02414.x
  3. https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2548254
  4. https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/07448480009596270
  5. https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/JAHA.117.002218