‌‌チロシンとは

チロシン(別名 L-チロシン)は非必須アミノ酸の一種です。実は非常に重要なアミノ酸でありながら、フェニルアラニン(必須アミノ酸)をチロシンに変換することにより体内で生成できるため、非必須とされています。ところが、この変換に必要な酵素が欠損していることで起こるフェニルケトン尿症(PKU)という疾患がまれに見られます。

ビタミンやミネラルだけでなく、チロシンを含むアミノ酸を十分に摂取するには、栄養バランスのとれた健康的な食事が鍵となります。サプリメントの安全性を監視する米国食品医薬品局(FDA)は、サプリメントとして摂取するチロシンは「一般に安全と認められる」としています。

チロシンの重要性

チロシンは、甲状腺ホルモンやアドレナリンなどのホルモンの分泌に必要な物質で、他にも以下のような特徴があります。

精神的・肉体的なストレスがかかると、ストレスが少ない時よりも多くのチロシンが必要になります。チロシンがプレワークアウトサプリメントなどのスポーツサプリメントによく含まれているのはそのためです。

チロシン  >  ドーパミン >  ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)> アドレナリン(エピネフリン)

  • アドレナリン:ストレスや危険が迫った時に役立ちます。心臓の鼓動を速めて血圧を上げ、脳や筋肉への血液供給を促す他、精神的な集中力を高める効果もあります。
  • ドーパミン:気分、意欲、身体機能、報酬感を助けます。化学伝達物質とされ、「快楽物質」とも呼ばれるドーパミンは、目標を達成したり、楽しい時間を過ごしている時などは脳内に溢れています。
  • ノルエピネフリン:筋肉の回復や血行を促進すると同時に、ストレス時にも有効で、アドレナリンと共に作用して脳や筋肉への血流を増加させます。
  • 甲状腺ホルモン:数ある機能の中でも、特に代謝のコントロールに重要なホルモンであり、この機能が低下すると、乾燥肌、体重増加、記憶障害、便秘、うつ病、倦怠感などを引き起こします。
  • メラニン:毛髪、眼、皮膚に含まれる物質で、色素を形成します。
  • メラトニン:脳内で分泌され、安眠に重要な役割を果たすホルモンで、強力な抗酸化物質であり、抗腫瘍効果もあります。(注:日本国内のお客様へ:メラトニンを含む製品につきまして、iHerbでは2ヶ月分まで購入が可能です)

チロシンの食物源

チロシンの効能

Tyrosine supplements on wooden background

記憶力と認知機能

年齢を問わず、脳機能を最適な状態に維持することは重要ですが、加齢に伴う認知機能の低下は避けられません。幸い、バランスのとれた健康的な食事をはじめ、日常的な運動習慣や良質な睡眠など、脳力を最大限に保つために日々できることは多数あります。研究によると、チロシンのようなサプリメントも効果があるようです。

例えば、1994年に行われた小規模研究では、16人の健康な被験者の半数にチロシン、残りの半数にプラセボが投与され、その後ストレスを受けやすい作業をしてもらいました。その結果、チロシンのサプリメントは、プラセボと比較して、投与後1時間で作業効率を向上させることが明らかになりました。

1995年の研究では、睡眠不足に悩む人の脳機能へのチロシンの効果が評価され、夜間に勤務する被験者に一連のテストが行われました。被験者らは計24時間以上起きている状態で、半数がチロシン、もう半数がプラセボを摂取しました。結果として、チロシン摂取群は、プラセボ摂取群と比べて作業効率の低下が少ないことがわかり、睡眠が不足している人の作業効率の低下を防ぐ上でチロシンは有望であると結論づけられました。

その後、2015年に行われた研究では、チロシンが、特にストレス時の認知能力を高めることが示されました。同研究者らは、チロシンには「認知能力を高める効果がある。ただし、神経伝達物質の機能が損なわれていない状態で」、かつ、ドーパミンやノルエピネフリンが一時的に減少している場合に限られるという結論に至りました。

最後に、2015年に行われた二重盲検ランダム化対照試験では、22人の健康な成人が評価されました。そのうちの半数がチロシン、残り半数がプラセボを摂取したところ、チロシンは脳機能を最適な状態に保つことで、認知的柔軟性を促進すると結論づけられました。

マルチタスク

多くの人がさまざまな分野に関与する現代にあって、一度に複数の仕事をこなすマルチタスク能力は必須のスキルと言えるのではないでしょうか。ただし、この能力には個人差があり、これが簡単にできる人もいれば、そうでない人もいます。

1999年の研究では、チロシンがマルチタスクに役立つ可能性があることがわかりました。この研究では、「...複数の作業を同時にこなそうとして効率が低下した場合、チロシンには作業記憶を維持する可能性があるため、補給することで作業効率の維持に役立つと考えられる....」という結論に達しました。

うつ病

うつ病は、世界中で何億人もの人が抱える一般的な疾患です。その原因は多岐にわたり、複合的な要因によるものもありますが、多くの患者に共通するのは、うつ病の兆候や症状対策として、専門医の診察を受けたり、抗うつ薬を服用することです。

1988年の小規模研究では、チロシンがドーパミン欠乏性うつ病に有効であることが示され、治療を受けた患者のうつ病症状と睡眠の質に改善が見られました。

ただし、1990年の研究は、他のタイプのうつ病治療にチロシンは役に立たないとしています。

運動

日常的な運動習慣が重要であることはよく知られています。運動には、即時的効果と長期的効果があり、体重維持やメンタルヘルスの向上をはじめ、骨・筋肉の強化や心機能・脳機能の向上にも役立ちます。

最高の運動パフォーマンスを目指して、ホエイプロテインクレアチンなどの栄養補助食品を摂取している方も多いでしょう。チロシンは、このような成分やサプリメントの中でも特に効果が期待できるものの一つです。

1992年の研究では、軍事行動のような睡眠不足と疲労を伴いがちなストレスの多い状況でのチロシン補給について評価され、チロシンのサプリメント摂取が気分と身体能力の向上に一役買う可能性があると結論づけられました。

2011年に行われた研究によると、脳内ドーパミン(チロシンはその前駆体)は、高温環境での運動能力を向上させます。この研究では、11人の健康な男性ボランティアが募集され、7日間隔で2種類の運動テストが行われました。その際、疲労困憊するまで自転車をこぐテストの1時間前にチロシン入り飲料またはプラセボ飲料を摂取したところ、「...急なチロシン補給は、適度に訓練された被験者の高温下での持久力向上に有望と見られる」ことが明らかになりました。

ただし、すべての研究で運動時のチロシンの効果が示されたわけではありません。2014年の研究では、チロシンを補給しても、高温下での自己ペースの持久力運動に影響しないことがわかりました。さらに、2016年の研究でも、運動時の身体能力、認知機能ともに向上が見られませんでした。なお、これらの研究でマイナス効果は指摘されていません。

このような結果にもかかわらず、多くの人がこのアミノ酸を信頼して日々の運動習慣に取り入れています。

甲状腺の健康

体内にセレンが十分あれば、ヨウ素とチロシンが結合して甲状腺ホルモンが作られますが、このホルモンが不足するとさまざまな健康問題が生じやすくなります。このことから、ヨウ素とチロシンは甲状腺ホルモンの生成に欠かせない2大分子と言えるでしょう。

2007年に行われたランダム化プラセボ対照研究では南極大陸の被験者が評価され、「チロシンは、プラセボと比較して、冬に血清甲状腺刺激ホルモン(TSH)の大幅な減少と気分の改善をもたらす。一方、甲状腺ホルモンT4(サイロキシン)-T3(トリヨードサイロニン)複合サプリメントを摂取しても、冬は改善が見られず、夏は気分の悪化につながる」と結論づけられました。つまり、この研究では抗甲状腺薬よりもチロシンの方が効果があったことになります。

ただし、チロシンと甲状腺機能に関する研究は他にあまりないため、主治医の指示がない限り、くれぐれも抗甲状腺薬の服用をやめないことが肝心です。

メラニン

皮膚、毛髪、眼に存在する天然の色素であるメラニンは大きく分けて2種類あり、褐色〜黒色のメラニンはユーメラニン、黄色〜赤褐色のメラニンはフェオメラニンと呼ばれます。

アルビノ(先天性白皮症)の人を除いて、程度の差こそあれ大半の人がメラニンを生成しています。メラニンが多いほど肌や髪の色が濃く、少ないほどいわゆる色白になります。

メラニンの生成にはチロシンの存在が不可欠であり、チロシンがなければ色素形成ができません。

パーキンソン病

パーキンソン病は、中枢神経系に影響を及ぼす神経疾患です。初期の症状には、振戦(しんせん。手足の震え)、歩行困難、動作緩慢(どうさかんまん。動きが遅い)などがあり、進行すると、低血圧、抑うつ、不安の他、場合によっては認知症を引き起こすこともあります。

チロシンは、ドーパミンの前駆体であるレボドパの前駆体です。レボドパは、パーキンソン病患者に不足している脳内化学物質でもあります。そのため、パーキンソン病患者の中には、L-チロシン500mgを1日3回摂取する人もいまが、私が調査したところ、チロシンの有用性を示す質の高い研究はありません。

確認できた唯一の研究は2014年のものでしたが、パーキンソン病とその症状に対するチロシンサプリメントの有意な効果は認められませんでした。

なお、チロシンのサプリメントとパーキンソン病治療薬を服用する場合は、この2点が腸での吸収を競合的に妨げるため、時間をあけて別々に服用することが重要です。詳しくはかかりつけ医にご相談ください。

摂取量の目安

チロシンは成人の場合、通常500~1,000mgを1日1~2回摂取します。空腹時または低タンパク質の食事と共に摂取すると吸収が良くなるでしょう。

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