カリウム早わかりガイド:効能や欠乏症などについて

著者:マイケル・マレー博士、自然療法医
この記事の内容:
カリウムとは?
カリウムは、水に溶けると電気を通す無機塩である電解質の一種です。電解質は常に対で作用します。つまり、ナトリウムやカリウムのような正の分子には、必ず塩化物のような負の分子が付いているというわけです。
カリウムの働き
カリウムはナトリウムと密接に連動し、全細胞の健康をはじめ、血圧、骨の健康、慢性疾患リスクの調整にも大きな役割を果たしています。
カリウムは、以下の生体機能の維持に関与しています。
- 水分平衡(バランス)および分配
- 酸塩基平衡
- 筋肉・神経細胞機能
- 心機能
- 腎臓・副腎機能
ナトリウム・カリウムポンプとは?
体中の細胞には、ナトリウム・カリウムポンプというポンプがあります。ATP(アデノシン三リン酸)の形で化学エネルギーを原動力とするこのポンプは、ナトリウムを細胞外に、カリウムを細胞内にそれぞれ移動させます。このポンプの1サイクルごとに、3種類のナトリウムイオンが細胞から排出され、2種類のカリウムイオンが細胞に取り込まれます。ところが、ナトリウムが過剰でカリウムが少ない食事が続くと、このポンプ機能に支障が生じやすくなります。体内のカリウム量の95%以上が細胞内にあることを覚えておいてください。1,2
ナトリウムの1日の平均摂取量は2500~7500mgで、そのほとんどが塩化ナトリウムすなわち食塩として摂取されています。これほど多量の塩分摂取量は、加工食品やインスタント食品などに含まれる塩分が意外に多いためで、1日小さじ1〜3の塩に相当します。体が1日に必要とするナトリウム量とは、驚くかもしれませんが、わずか200mg、つまり平均摂取量の約10~30分の1です。
その一方で、アメリカをはじめとする多数の国々のカリウムの1日平均摂取量は2500mg未満です。この量は、多くの保健機関が推奨する成人の摂取量4700mgのおよそ半分に過ぎません。
ナトリウム・カリウムポンプは細胞内の電荷を維持する働きもあることから、特に筋肉や神経細胞に重要です。神経伝達や筋収縮の最中は、カリウムが細胞外に流出してナトリウムが流入することで電荷が変化します。この変化が神経インパルスや筋収縮を引き起こすわけです。カリウムが不足すると、真っ先に筋肉や神経に影響が出るのは当然ともいえるでしょう。
カリウム欠乏症の症状
カリウム欠乏症は、筋けいれん、精神錯乱、イライラ、心拍の乱れといった症状が現れるのが特徴です。カリウム欠乏症の初発症状には、疲労感や筋力低下なども見られます。
これらの症状は、筋肉のエネルギー貯蔵量が低下していることを示すものです。カリウムは、血糖をグリコーゲン(筋肉や肝臓に貯蔵される多糖)に変換するために不可欠です。カリウムが不足すると、貯蔵されているグリコーゲン量が低下します。グリコーゲンは筋肉を動かすエネルギー源であることから、カリウムが不足すると著しい疲労感や筋力低下が生じます。
カリウム欠乏症は、カリウムの食事摂取量不足の他にも、過度の体液損失(発汗、下痢、排尿)や薬物使用(利尿剤、下剤、アスピリンなど)が原因となることがあります。特に、温暖な環境で長時間にわたって運動すると、汗で大量のカリウムが失われがちです。アスリートや運動習慣がある人は、カリウムの必要摂取量が平均より多めと言えるかもしれません。
食事におけるカリウムとナトリウムの比率の重要性
ナトリウムとカリウムのバランスはヒトの健康に極めて重要です。3食事でナトリウムを摂りすぎると、このバランスが崩れやすくなります。アメリカ人の大半が食事で摂るカリウムとナトリウムの比率(K/Na比)は1:2未満です。つまり、ほとんどの人がカリウムの2倍の量のナトリウムを摂取しているというわけです。ところが、健康的な比率はこの逆なのです。健康を考えると、ナトリウムの2倍以上のカリウムを摂取する必要があります。これは、K/Na比が100:1以上である野菜や果物が豊富な食生活を送っていれば、実は軽くクリアできる目標です。
代表的な野菜・果物のナトリウム・カリウム量およびK/Na比。
食物 | 量 | カリウム (mg) | ナトリウム (mg) | カリウム・ナトリウム比 |
アボカド | 中½個 | 487 | 7 | 69:1 |
バナナ(生) | 中1本 | 422 | 1 | 422:1 |
黒豆(無塩で調理済みのもの) | ½カップ | 305 | 1 | 305:1 |
芽キャベツ(蒸したもの) | ½カップ | 248 | 7 | 35:1 |
カンタロープ(メロン) | 中¼個 | 368 | 22 | 17:1 |
ニンジン(生) | ½カップ | 205 | 44 | 5:1 |
オレンジ | 中1個 | 232 | 1 | 232:1 |
ジャガイモ(皮付きのまま焼いたもの) | 中1個 | 926 | 17 | 54:1 |
レーズン | ½カップ | 543 | 8 | 68:1 |
ホウレンソウ(茹でたもの) | ½カップ | 420 | 63 | 7:1 |
出典:米国農務省 (USDA)栄養データベース |
健康的な血圧コントロールのサポートに役立つカリウムの働きとは?
腎臓が過剰なナトリウムを尿中に排泄することで反応するのが理想ですが、その過程でカリウムも排泄されてしまいます。そのため、カリウム濃度が低いと腎臓が支障をきたします。
特にカリウム濃度が低い場合、腎臓は体にカリウムを保持しようと努めます。従って、カリウム濃度が低いと、たとえナトリウム濃度が高くても、腎臓は余分なナトリウムを排泄することができなくなります。これは、同時にカリウムも失うことになるからです。その結果、体がナトリウムを排出しないことから、そのバランスをとるために水分が滞留することになります。
これにより、体内の水分量が増え、循環する血液の量が増えます。血圧は、水撒き用ホースを通る水圧に似ています。水分量が増えるというのは、蛇口を開けて水量を増やすようなものです。動脈が硬くなったり収縮したりすると、圧力が上がります。こうして血圧が上がると、心臓の負担が増えてしまいます。ナトリウムを摂りすぎた場合も血管の収縮・弛緩能力が鈍りますが、これはカリウムの摂取量が少ないとさらに悪化します。
低カリウム・高ナトリウム食が多数の高血圧症例に大きく関わり、それによって心臓発作や脳卒中のリスクが高まることが多くの研究で実証されています。一方、高カリウム・低ナトリウム食は、高血圧対策に役立つ可能性があります。
多くの二重盲検試験では、カリウムのサプリメント摂取だけでも血圧コントロールに大きな効果があることが示されていますが、同時にナトリウム制限を行うことで最大の成果が期待できます。摂取量については、カリウムを用いた研究で、1日2.5〜5.0gを使用したり、塩化ナトリウムの代わりに高カリウム・低ナトリウムの食塩を使用するのが一般的です。ナトリウム摂取量は1日800mg未満が理想とはいえ、食事によるカリウム摂取量が十分であれば、ナトリウムを1日1500mg未満に制限した場合でも良好な結果が示されています。3-5
カリウム必要摂取量を知る方法
カリウムの栄養補助食品には、カリウム塩(塩化物や炭酸水素塩)、さまざまなミネラルキレート(アスパラギン酸塩、クエン酸塩など)に結合したカリウム、食品由来のカリウムの3種類があります。なお、カリウムを錠剤で大量に摂取すると、吐き気、嘔吐、下痢、潰瘍を引き起こす可能性があるため、米国食品医薬品局(FDA)はカプセルや錠剤に含まれるカリウム量を1回わずか99mgに制限しています。とはいえ、高カリウム・低ナトリウム塩の使用は、カリウムの摂取量を増やしてナトリウムを抑える優れた方法であることがわかっています。塩化カリウム入りの塩代替品で、小さじ1/4あたり240~530mgのカリウムが供給できます。
食事によるカリウムの最低推奨摂取量は、女性が2400mg、男性が3400mgです。体内のカリウム必要量が食事で補えないなら、カリウムのサプリメント摂取が不可欠です。食事だけでカリウムの必要量に満たない場合は、医師が1日1.5〜3.0gのカリウム塩を処方するのが一般的です。
カリウムに副作用はあるのでしょうか。
概して、カリウムのサプリメント摂取は忍容性が良好です。なお、重度の腎疾患患者の他、ジゴキシン(ラノキシン)、カリウム保持性利尿薬(アルダクトン、ジレニウム、ミダモール)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬系の降圧薬(バソテック、ゼストリル、カポテン、ロテンシンなど)を含む処方薬を服用中の方には、(医師の指示がない限り)カリウムのサプリメント摂取は禁忌となります。これらの薬剤をカリウムのサプリメントと併用すると、カリウム中毒を引き起こす可能性がありますのでご注意下さい。
参考文献:
- Weaver CM. Potassium and health. Adv Nutr. 2013 May 1;4(3):368S-77S.
- He FJ, MacGregor GA. Beneficial effects of potassium on human health. Physiol Plant. 2008 Aug;133(4):725-35.
- Perez V, Chang ET. Sodium-to-potassium ratio and blood pressure, hypertension, and related factors. Adv Nutr. 2014 Nov 14;5(6):712-41.
- Burnier M. Should we eat more potassium to better control blood pressure in hypertension? Nephrol Dial Transplant. 2019 Feb 1;34(2):184-193.
- Aaron KJ, Sanders PW. Role of dietary salt and potassium intake in cardiovascular health and disease: a review of the evidence. Mayo Clin Proc. 2013 Sep;88(9):987-95.