NAD+とは

ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)は、すべての生細胞に存在する活性型ビタミンB3です。ナイアシンやナイアシンアミドのような一般的なビタミンB3は栄養補助食品としてこれまで長年利用されてきましたが、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)ニコチンアミドリボシド(NR)のように新たに脚光を浴びている特殊なビタミンB3は、細胞老化の要因の一部に対処するという科学的エビデンスが多数示されています。1-4

NAD+は、エネルギー生成、細胞修復、細胞機能全体の改善など、多くの細胞プロセスに関与しています。たとえナイアシンやナイアシンアミドを摂取していても年齢と共ににNAD+濃度が低下するため、不足したNAD+を回復させることがエイジングケアと細胞の健康を促進する手段の一環として注目を集めています。1,2

‌‌‌‌NAD+の働き

人体で最も重要な分子の一つであるNAD+は、万能の電子伝達体と呼ばれています。水が万能溶媒と呼ばれるように、NAD+も人間の健康に欠かせないものです。

このNAD+を理解するには、まず水素について知る必要があるでしょう。水素原子は、正の電荷を持つ陽子(ようし)と負の電荷を持つ電子で構成されています。水素原子が電子を失うと正電荷を持つようになり、余分な電子を受け取ると負電荷を帯びるようになります。陽子1個と電子1個の場合は互いの電荷を打消し合うため、水素の電荷が±0となります。

NAD+の+(プラス)は、NAD分子が電子を持たない正電荷の水素陽子を含んでいるため、正(プラス)の電荷を帯びていることを表しています。また、化学反応によっては、NAD+が電子を2個持つ負電荷の水素を受け取ってNADHになることもあります。コインの裏表のように、NAD+(酸化型)とNADH(還元型)は「酸化還元(別名レドックス還元(REDuction)・酸化(OXidation)対」と呼ばれます。これは、同じ分子が、電子を受け取る(還元)あるいは失う(酸化)という2つの状態を表す言葉です。つまり、酸化還元反応とは電子を受け取ったり失ったりすることです。このNAD+からNADHへの反応で得られたものは、NAD+の正電荷を中和するための負電荷の電子1個ということになります。NADHは電荷を持たないため+記号がついていませんが、電荷を持たないながらも重要であることには変わりありません。

NAD+はエネルギー生成に不可欠

NAD+とNADHは、いずれもヒト細胞の正常な機能とエネルギー生成の他、分子を活性型に変換するのにもなくてはならない存在です。例えば、コエンザイムQ10(CoQ10)は、細胞内で最も重要な抗酸化物質の一つであり、ミトコンドリア内での細胞エネルギーの生成にも欠かせません。CoQ10は、その機能を果たした後、活性型(ユビキノール)から不活性型(ユビキノン)に変換されます。CoQ10を活性型に再生するには、NADHは水素と電子を1個ずつユビキノンに与えてユビキノールを形成します。酸素分子が余分な電子を得ると、NADHはNAD+に戻ります。

NAD+が関与する反応はNADHとは異なります。NAD+の働きはNADHには真似ができず、その逆もしかりで、細胞にはNAD+とNADHの両方が必要なのです。細胞は、細胞エネルギーの生成をはじめ、DNA、細胞膜、タンパク質、ホルモンなどの分子の構成や修復にNAD+とNADHの力を借りています。

NAD+とNADHの違い

NAD+とNADHは、それぞれ異なる分子に作用します。NAD+は、細胞の機能を調節する特殊な化合物が役割を果たす上で特に重要です。その代表的な例として、サーチュイン(酵素の一種で、老化を抑制する機能を持つとされるタンパク質)が正常に機能するにはNAD+が不可欠です。NAD+がなければ、これらの細胞性タンパク質が活性化されないため、細胞の老化を防いで炎症を調節することができません。また、NAD+によって活性化されたサーチュインは、血糖値コントロールや体重など、適切な代謝も促進します。5

この他にも、NAD+が持つ重要なエイジングケア効果は、各細胞内で時を刻む遺伝子時計を遅らせることです。この時計は老齢期を決定づけるものであり、テロメアの長さを信号にしています。テロメアとはDNA(遺伝物質)の末端部分を指し、これが短くなるほど遺伝子発現に影響を与え、細胞の老化が進むことになります。そのテロメアの短縮を抑制する重要な化合物の一つがNAD+です。1,2,5

‌‌‌‌加齢とNAD+濃度の低下が及ぼす影響

NAD+は非常に重要な細胞分子です。加齢によって細胞が正常に機能しなくなる理由の一つは、年齢を重ねるほどNAD+濃度が下がる傾向にあることです。こうしてNAD+が減少すると、以下のような問題を引き起こしやすくなります。1,2,5

  • 代謝低下による体重増加や血糖コントロール不良
  • 倦怠感
  • 血管の健康状態の低下
  • 加齢による筋肉減少(サルコペニア)
  • 加齢に伴う記憶障害と精神機能低下
  • 加齢に伴う視力・聴力の低下

‌‌‌‌加齢に伴うNAD+減少を予防

年齢と共にNAD+が減少する大きな理由は慢性炎症です。軽度の慢性炎症が加齢の加速に及ぼす影響を指して炎症老化(インフラメイジング、Inflammaging)という言葉が使われてきました。

炎症老化が及ぼす結果の一つにNAD+の減少があります。炎症が起こるとCD38と呼ばれる細胞内酵素が増加し、この酵素がNAD+だけでなく、NAD+の前駆体も分解してしまいます。6,7幸い、レスベラトロールケルセチン、ルテオリンといった植物性ポリフェノールにはCD38の活性を抑える働きがあります。8,9

もう一つ、NAD+濃度の維持に重要な要素は、NADHが電子を受け取る際にNAD+を回復させることです。NAD+を回復できるのはNQO1という特殊な酵素です。この変換の重要性は、NQO1遺伝子が 長寿遺伝子と呼ばれていることからも明らかでしょう。

NQO1が不足すると、解毒機能やエネルギーレベルの低下の他、細胞機能の変化などにつながります。NQO1は、NADHと連携してCoQ10を不活性型(ユビキノン)から活性型(ユビキノール)に変換し、その過程でNAD+も生成する他、ビタミンKを活性化して、血液凝固や骨の健康などの機能を発揮させる上でも重要な役割を果たしています。

このことから、エイジングケアの目標として、このNQO1遺伝子の発現量を増やすことが大切ですが、これはNrf2と呼ばれるタンパク質を誘導し、BETというタンパク質によって減少させることで達成されます。それを助けるのがポリフェノールで、特にレスベラトロールが有効です。その上、レスベラトロールはNQO1の活性を直接高める他にも、Nrf2を増加させ、CD38や炎症と共にBETタンパク質を減少させます。NAD+濃度を高める上で、レスベラトロールとNAD+前駆体の併用が推奨されるのはそのためです。5,10,11

さらに、レスベラトロールは、このポリフェノール自体の直接的な作用を発揮するだけでなく、サーチュインのエイジングケア効果も高めます。臨床研究によると、レスベラトロールは炎症老化の抑制や精神機能の向上に役立つ可能性があります。12,13なお、レスベラトロールの摂取量は1日500〜1,000mgが目安です。

‌‌‌‌NMNとNRでNAD+濃度を向上

細胞の正常な機能と老化防止にはNAD+が重要であることから、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)ニコチンアミドリボシド(NR)のサプリメントを摂取してNAD+を高める方法が人気を集めています。

この2種類の強化型ビタミンB3はいずれもNAD+濃度を効果的に高め、継続して使用することで濃度を維持できることがわかっています。実際、NAD+濃度を効果的に増加させるNRとNMNは、医学文献でNAD+ブースターと呼ばれています。

多くの前臨床研究(別名、非臨床試験。ヒトでの臨床試験の前に行われる研究段階)では、NRとNMNが細胞老化によくある特徴の数々を改善することが示されています。3,4現在100件以上の研究が行われていることからもわかる通り、増え続ける科学研究により、NMNとNRのエイジングケア効果の可能性に大きな期待が寄せられており、目下ヒト臨床試験で検証中です。現在、NMNまたはNRを用いた40件以上のヒト臨床試験が進行中で、脳、心血管系、代謝の機能改善など、数多くの効能が評価されているため、さらに多くのデータが報告される日も遠くないでしょう。現存するデータだけでも既に有望なものです。

‌‌‌‌一つ使用するとしたらNMNとNRのどちらを選べば良いのでしょう。

現存するヒト臨床データのほとんどはニコチンアミドリボシド(NR)を用いて、認知機能、気分、代謝、酸化ストレス、血管の健康、肝臓の健康、血糖コントロールに対するNRの効果に焦点を当てたものです。NRを用いた計9件のヒト臨床試験では、いずれもNAD+濃度を上昇させることが示されていますが、多様な健康問題の改善に関しては、全体として一貫した結果が得られていません。3

NRを使用した研究のうち最も一貫性のある結果は、脳機能の改善と血管の健康促進に関するものです。米ハーバード大学のデビッド・シンクレア教授を筆頭に、多くの専門家がニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)は最高のNAD+ブースターであると考えており、シンクレア教授自身も1日1,000mg(同じくレスベラトロールも1,000mg)摂取しています。NMNがNRよりも優れた臨床結果を示すであろうと思わせる理由は多数あります。14

例えば、NRとNMNは共にNAD+を上昇させますが、NMNにはいくつかメリットがあるとされています。14-16NMNは、NRよりもNAD+の生成に近い物質であり、NMNを直接細胞内に取り込む特定のトランスポーターが同定されているため、NRよりも効果的に利用できる可能性があります。一方、経口NRの一部はそのまま組織に届けられるものの、摂取されたNRの多くは分解されて通常のナイアシンアミドになると見られることが難点と言えるかもしれません。これにより、NAD+の機能を損なうフィードバックメカニズム(フィードバック機構。制御対象物が制御物質をコントロールすること)が作用する上、ナイアシンアミドはサーチュイン活性の強力な阻害物質であるためです。17,18

このように、摂取されたNRの多くがナイアシンアミドに変換されてしまうことも、動物研究でNMNの方に強力かつ幅広い有効性が示される理由の一つと言えるでしょう。その一例として、マウスを用いた研究では、NMNにより加齢に伴う生理機能の低下が幅広く改善されました。具体的には、マウスにNMNを1年以上投与したところ、ミトコンドリア機能と代謝機能をはじめ、インスリン感受性と脂質代謝、骨密度、視力、免疫機能に改善が見られました。19また、NMNを投与されたマウスは、持久力と身体能力が最大80%向上したこともわかっています。これらの効果はNRでは得られていません。

マウスモデルを用いた脳の老化に関する研究では、NMNとNRがいずれも、脳機能の低下を引き起こす重要な化合物であるアミロイドβの蓄積を減少させることが明らかになっています。20,21NRは認知機能を改善することも示されており、この研究に関しては有利なようです。21

ハーバード大のデビッド・シンクレア教授と並んでNMN研究の第一人者と言えるのが、ミズーリ州セントルイスのワシントン大学医学部の今井眞一郎教授です。同教授のマウス研究では、NMNが老化の兆候を遅らせたり、エネルギーや代謝を高める上で確かな効果があることが示されました。今井教授によると、マウスでの結果をヒトに置き換えると、NMNを補給することで、ヒトの生物学的年齢(多様なバイオマーカーすなわち生理学的指標の測定に反映される身体機能の年齢)の大幅な改善が期待できます。

‌‌摂取量と副作用

これまでの研究に基づく摂取量の目安は、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)が1日250~500mg、ニコチンアミドリボシド(NR)が1日1,000mgです。以上の用量は、忍容性が高く、副作用や薬物相互作用がないことが確認されています。16,22

参考文献:

  1. Covarrubias AJ, Perrone R, Grozio A, Verdin E. NAD+ metabolism and its roles in cellular processes during ageing. Nat Rev Mol Cell Biol. 2021 Feb;22(2):119-141.
  2. Gilmour BC, Gudmundsrud R, Frank J, et al. Targeting NAD+ in translational research to relieve diseases and conditions of metabolic stress and ageing. Mech Ageing Dev. 2020 Mar;186:111208
  3. Hong W, Mo F, Zhang Z, Huang M, Wei X. Nicotinamide Mononucleotide: A Promising Molecule for Therapy of Diverse Diseases by Targeting NAD+ Metabolism. Front Cell Dev Biol. 2020 Apr 28;8:246.
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  5. Bonkowski MS, Sinclair DA. Slowing ageing by design: the rise of NAD+ and sirtuin-activating compounds. Nat Rev Mol Cell Biol. 2016 Nov;17(11):679-690. 
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  7. Camacho-Pereira J, Tarragó MG, Chini CCS, et al. CD38 Dictates Age-Related NAD Decline and Mitochondrial Dysfunction through an SIRT3-Dependent Mechanism. Cell Metab. 2016;23(6):1127-1139. 
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  9. Kellenberger E, Kuhn I, Schuber F, Muller-Steffner H. Flavonoids as inhibitors of human CD38. Bioorg Med Chem Lett. 2011 Jul 1;21(13):3939-42.
  10. Farkhondeh T, Folgado SL, Pourbagher-Shahri AM, Ashrafizadeh M, Samarghandian S. The therapeutic effect of resveratrol: Focusing on the Nrf2 signaling pathway. Biomed Pharmacother. 2020 Jul;127:110234. 
  11. Truong VL, Jun M, Jeong WS. Role of resveratrol in regulation of cellular defense systems against oxidative stress. Biofactors. 2018 Jan;44(1):36-49.
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  13. Marx W, Kelly JT, Marshall S, et al. Effect of resveratrol supplementation on cognitive performance and mood in adults: a systematic literature review and meta-analysis of randomized controlled trials. Nutr Rev. 2018 Jun 1;76(6):432-443. 
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  22. Martens CR, Denman BA, Mazzo MR. Chronic nicotinamide riboside supplementation is well-tolerated and elevates NAD+ in healthy middle-aged and older adults. Nat Commun. 2018 Mar 29;9(1):1286.