甲状腺は、体内で多くの重要な機能を担う器官ですが、その中でも特筆すべき特徴はエネルギー生成と代謝をサポートすることです。ヨウ素は、甲状腺ホルモンの分子構造に欠かせない要素として、このホルモンの生成に重要な役割を果たしています。疲労感が続く場合は、ヨウ素欠乏の可能性を視野に入れる必要があるかもしれません。なぜならヨウ素の濃度が低い状態が続くと、自己免疫性甲状腺疾患を引き起こすおそれがあるためです。

‌‌ヨウ素欠乏の症状

ヨウ素の濃度が正常値に満たないと、さまざまな症状が現れやすくなります。以下は、主なヨウ素欠乏および甲状腺機能障害の症状例です。

  • 気分の低下
  • 疲れやすく昼寝をしないと一日持たない
  • 月経不順
  • 頭痛
  • 寒がりになる
  • 髪の毛が細くなる
  • 息切れしやすい
  • ブレインフォグ(脳霧、頭のモヤモヤ)
  • 便秘
  • 関節のこわばり、筋肉痛

‌‌‌‌ヨウ素の濃度が甲状腺の健康に及ぼす影響

甲状腺は首の気管の両脇にある蝶型の腺であり、その主な働きは甲状腺ホルモンを分泌することです。甲状腺から分泌される主要なホルモンは、レボチロキシン(T4)とL-トリヨードサイロニン(トリヨードチロニン)(T3)の2種類で、いずれもほぼ全器官の機能に影響を与えます。

T4は不活性型の甲状腺で、甲状腺からのみ分泌されるホルモンです。このT4は、甲状腺外で活性型の甲状腺として知られるT3に変換されます。T3とT4はどちらもヨウ素を含んでおり、3と4の数字はそれぞれの甲状腺ホルモン分子に含まれるヨウ素分子の数を表しています。活性型甲状腺ホルモンは、細胞を刺激することで、ビタミン、タンパク質、炭水化物、脂質、水、電解質を利用しやすくして、エネルギーを最適な状態に保つ(代謝をコントロールする)働きがあります。

こうした甲状腺ホルモンの生成にはヨウ素が欠かせないため、ヨウ素が欠乏すると甲状腺機能低下につながります。ヨウ素不足が長引き、甲状腺ホルモンが十分に生成できなくなると、自己免疫性甲状腺疾患の発症リスクが高くなります。

甲状腺の健康への自然なアプローチ:詳しくはこちら

‌‌ヨウ素欠乏のリスクがある人

ヨウ素欠乏症はそれほど多い病気ではありませんが、ヨウ素不足は増えつつあるようです。食卓塩よりも健康的な海塩を摂っている方は、実はヨウ素不足のリスクが高めです。これは、食卓塩にはヨウ素が添加されているためです(あらゆる食卓塩にヨウ素が添加されています)。

その他のリスク要因には以下のようなものがあります。

  • ブロッコリーなどのアブラナ科の野菜を多く含むローフード(加熱していない生の食材)をよく食べる
  • 塩素処理水や高フッ素化水を飲んでいる
  • 臭化物(臭素と他の元素との化合物)や臭素への曝露
  • 加工食品が中心の食生活
  • 甲状腺疾患の家族歴がある

アブラナ科の野菜

アブラナ科の植物には硫黄分の多い野菜が含まれ、キャベツ、カリフラワー、芽キャベツなど、調理すると独特の匂いを放つのが特徴です。この種の野菜は、ビタミンB群、食物繊維、抗酸化物質などの優れた栄養素が豊富なことからパワーフードとして注目されています。しかし一方、消化過程でゴイトリンという化合物が生成され、甲状腺ホルモンの合成を阻害する可能性があるのが難点です。とはいえ、日常的にアブラナ科の野菜を生で大量に摂取しない限り、問題はありません。

飲用水

塩素とフッ化物は、いずれもヨウ素の取り込みを直接妨害します。通常、塩素とフッ化物は、水道水や一部のペットボトル入り飲料水に含まれています。基本的な炭ろ過フィルターではこのような元素を除去できませんが、逆浸透膜(RO膜)フィルターを使えば取り除くことができます。従来フッ素と呼ばれてきたフッ化物は、歯磨き粉によく含まれることからもわかるように、虫歯の発生を抑えるのに役立ちます。フッ化物入りの歯磨き粉を使用した後は、水と一緒に飲み込んでしまわないように、よく口をすすぐようにしましょう。

臭化物

臭素と臭化物は、さまざまな家庭用品に含まれている化学物質です。臭素は、ソファ、車のシート、カーペット、マットレス、椅子張り生地などに使用されている一部の難燃剤をはじめ、市販の一般用医薬品(OTC医薬品)や食品の他、染毛剤などのパーソナルケア製品に含まれていることもあります。臭素は、ホルモンの生成を司る内分泌系に悪影響を及ぼすことが知られているため、家庭用品を購入する際はラベルの成分表示を確認することが大切です。

‌‌‌‌ヨウ素が豊富な食品

ヨウ素は食事にふんだんに含まれているわけではありません。健康にプラスとなるほど高濃度のヨウ素を含む食品はごく限られています。代表的なヨウ素の供給源は以下の通りです。

  1. コンブなどの海藻類
  2. ミネラル豊富な土壌で育ち、収穫されて間もない有機栽培の地元野菜
  3. 甲殻類およびタラ
  4. マカの根

海藻類

海藻類は、欧米では最も利用の少ないスーパーフードの一つでしょう。海藻には、健康に必要なすべてのミネラルはもとより、陸上植物の10〜20倍ものミネラルの他に、さまざまなビタミンが含まれています。微小プランクトンから全長50〜60mに及ぶジャイアントケルプまで、多様な種類からなる海藻類は世界で最も多く生息する植物の一つでありながら、世界人口の大半は食べる習慣がありません。

褐藻類に属するコンブは、世界中の冷水域に生育する大型の海藻で、古くから中国、日本、韓国の料理では定番と言える栄養価の高い食材です。コンブはもちろん、日本人にはワカメや海苔もお馴染みですが、最近は多くの健康食品店でバラエティに富んだ美味しい海藻製品が販売されるようになりました。

淡白な白身魚は、サケのような脂肪分の多い魚よりもヨウ素が多く含まれています。アイスランドの食品成分データベースによると、ヨウ素はタラ、ハドック(コダラ)、オヒョウ、ポラック(シロイトダラ)などの脂肪分の少ない魚に多く含まれています。

地産地消(地域生産・地域消費)の野菜

各地域で栽培された有機野菜には数多くの健康効果があります。農薬に汚染されていないため、土壌中のミネラルが保たれたまま農作物に取り込まれます。また、ミネラルをはじめとする野菜の栄養素は収穫直後が最も豊富で、時間が経つと栄養価が低下します。地域の有機農家から収穫直後の野菜を調達することで、ヨウ素を多く含む食材を手に入れる機会が増えます。一方、輸入野菜など遠方から調達した作物は収穫後2〜3週間経過しているものが多く、どうしても栄養価が落ちてしまいます。

マカ

マカはペルー原産の植物で、古来強力な天然の免疫増強剤として用いられてきました。一見カブに似ており、粉末にして飲料やスムージーに加えて飲まれるマカもヨウ素を豊富に含む植物です。

‌‌‌‌ヨウ素の補給を念頭に置く

食事だけで十分なヨウ素を着実に摂取することは難しいため、ヨウ素不足の方はサプリメントによる補給を考慮してみると良いでしょう。ヨウ素のサプリメントには大きく分けて外用と内服の2種類があり、いずれもヨウ素の濃度を高めるのに役立ちます。

ただし、外用剤の場合は、塗布により吸収されるヨウ素の濃度が製品によって異なるため明確な用量がありません。ヨウ素欠乏の人がヨウ素の外用剤を皮膚に塗ると、成分が吸収されやすいだけでなく、吸収速度も速い傾向にあります。

経口タイプのヨウ素は健康的な選択肢であり、摂取量を管理しやすいのが特徴です。ヨウ素は液体タイプが多く、そのまま飲むか食品や飲み物に混ぜて摂取するのが一般的です。摂取量については、ヨウ素欠乏の成人の場合、通常12.5mgから始め、大幅に増やしていくことになります。ヨウ素は概ね安全ですが、必要のない場合は摂取しないでください。

‌‌‌‌必ず医師に相談する

疲労感やだるさを感じ、ヨウ素欠乏・不足が疑われる方は、かかりつけ医に相談して甲状腺機能とヨウ素濃度の検査を受けることをお勧めします。症状によっては、ヨウ素を数滴補給するだけで、正常なエネルギーレベルの維持に役立つかもしれません。

参考文献:

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  3. Fenwick GR, Heaney RK, Mullin WJ. Glucosinolates and their breakdown products in food and food plants. Crit Rev Food Sci Nutr. 1983;18(2):123-201.
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