ベジタリアンが一日に必要なタンパク質量を摂取する方法

著者:ライアン・ガイガー、管理栄養士
この記事の内容:
普段、ベジタリアンやヴィーガンの人がまず聞かれる質問といえば、「どこからタンパク質を摂っているのか」というものです。これは、タンパク質は肉からしか摂れないと誤解している人が多いためです。確かに、肉にはタンパク質が豊富に含まれていますが、植物性タンパク質も決して引けを取りません。
肉を食べないからといって、一日の推奨タンパク質摂取量に達しないわけではないのです。ベジタリアンやヴィーガンの食事を実践する成人にとって、マメ科植物、ナッツ類、種子類などは、肉を食べなくても十分な摂取量を確保できる優れたタンパク源です。
4種類のベジタリアン
肉を排除した食事にはさまざまな種類があります。肉を摂らない食事法で最も多いのは以下のタイプです。
- ラクト・オボ・ベジタリアン(乳卵菜食)は最も多いタイプのベジタリアンで、一般的には単に菜食主義と解釈されています。この食事パターンでは、牛・豚肉、家禽肉(鶏肉など)、魚、貝類など動物性の肉類は摂らないものの、卵と乳製品は食べます。「ラクト・オボ」のラクト(lacto)はラテン語で乳を意味し、オボ(ovo)は卵を表します。
- ラクト・ベジタリアンの食事は、牛・豚、家禽肉、魚介類の他に卵も食べませんが、牛乳やチーズといった乳製品は口にします。
- オボ・ベジタリアンは、牛・豚、家禽肉、魚介類、乳製品を摂らず、卵は食べます。
- 一方、ヴィーガンは、肉類、乳製品、卵、ハチミツを含む一切の動物性食品を排除します。
タンパク質の重要性
タンパク質はアミノ酸で構成され、体の全細胞の重要な部分を占める成分です。体は、組織の構築や修復にタンパク質を利用しています。また、タンパク質は骨、筋肉、軟骨、皮膚、血液を作る役割も担っています。さらに、タンパク質は体内の酵素やホルモン生成にも利用されます。
そのタンパク質が長期間にわたって不足すると、これらの重要な機能が損なわれるおそれがあります。ただ、タンパク質が不足することは非常に稀であり、肉を食べなくても体に必要なタンパク質を簡単に摂取できることは特筆すべきでしょう。
タンパク質の必要摂取量
タンパク質の食事摂取基準(DRI)は、体重1kgあたり0.8gです。例えば、体重60kgの人は一日およそ48gのタンパク質が必要ということになります。あるいは、一日のカロリー摂取量の10~15%をタンパク質に充てることを目標にしても良いでしょう。
一日の必要摂取量は、年齢、性別、運動量によっても異なります。これらの要素によっては、一日に必要なタンパク質量が増える可能性があります。タンパク質が十分摂れているか不安な方は、管理栄養士に相談することをお勧めします。
植物性タンパク源の種類
ベジタリアン向けのタンパク源には、インゲン豆、うずら豆、黒豆、ひよこ豆、スプリットエンドウ(割った干しエンドウ豆)、レンズ豆、大豆などの豆類があります。これらの食品は優れた植物性タンパク源であると同時に、鉄分や亜鉛といった栄養素も含まれています。USDA(米国農務省)によると、動物性タンパク質に類似する豆類は、タンパク質または植物性食品群の一部とみなされます。一方、肉を食べる人にとって、豆類およびマメ科植物は、食物繊維、葉酸、カリウムが含まれていることから、あくまでも植物性食品と考えられています。
ちなみに、大豆とキヌアを除く大半の植物性タンパク質は完全タンパク質とは言えません。それは、9種類の必須アミノ酸のうちの一部しか含まれていないためです。ただし、ご心配はいりません。このような「不完全タンパク質」を一日の食事で組み合わせることで、必要な栄養素を摂取することができます。
植物性タンパク質の例
- セイタン(生麩などのグルテンミート)は、ベジタリアン向けのタンパク源の中で最もタンパク質濃度が高い食品です。セイタンは、小麦の主なタンパク質であるグルテンから作られています。セイタン100gあたりにタンパク質が約25g含まれており、ベジタリアン向けタンパク源の中では最も多いタンパク質量を誇ります。このセイタンは、見た目・食感ともに肉に近いことから、よく使われる肉の代用食品です。
- 緑豆(リョクトウ。ムング豆とも)は店頭で手に入りにくい種類ですが、オンラインなら簡単に購入できます。この豆の良さはあまり知られていないのですが、実は調理済みの緑豆1カップあたり14gのタンパク質が含まれています。緑豆は、サラダ、スープ、炒め物などによく使われます。
- 豆腐、テンペ、枝豆は、ベジタリアン向けの完全タンパク質の良い例です。豆腐は、チーズの製造工程と似ており、大豆を絞って作られます。テンペは、押し固めた大豆を発酵させたものです。テンペ100gには、約10〜19gのタンパク質が含まれています。豆腐やテンペは、いずれも他の食材の味が馴染みやすいため、多様な料理に応用できる人気の食材です。豆腐は水気をよく切ってから調理するのがポイントです。また、テンペは茹でるか蒸すと苦味が気にならなくなります。
- レンズ豆にはさまざまな種類がありますが、特に緑と赤がよく知られています。勿論、よく知られているだけでなく、調理も簡単です。水にレンズ豆を入れて、柔らかくなるまで茹でるだけです。調理済みレンズ豆1カップで、約18gの植物性タンパク質が供給されます。
- 栄養酵母(ニュートリショナルイースト)は、ビール酵母とも呼ばれる植物性の完全タンパク源です。この食品は、混ぜたり振りかけるなど、さまざまな料理に加えることができます。栄養酵母を添えることで、料理のタンパク質量が増える上(栄養酵母大さじ1あたりタンパク質3g)、ナッツのような香ばしさやチーズのようにまろやかな旨味が生まれます。しかも、栄養酵母はタンパク質だけでなく、ビタミンB12をはじめとするビタミンB群も豊富です。
- ヘンプシード(麻の実)は、スムージーに加えたり、サラダのトッピングにも便利な植物性タンパク質です。ヘンプシード30gに約10gのタンパク質が含まれていますが、これはチアシードやフラックスシード(亜麻仁種子)よりも50%多い量です。ヘンプシードはタンパク質が多いだけでなく、オメガ3とオメガ6脂肪酸のバランスが最適であるとされています。
すぐに食べられる食材や下ごしらえの少ない食品をあらかじめ用意しておくと、いざという時にも一日に必要な植物性タンパク質を摂取できて安心ですね。ご家庭の食品庫に植物性プロテインパウダーやグラノーラの他、豆を原料とする軽食なども常備してはいかがでしょう。
ベジタリアン向け一日の高タンパク食献立例
朝食:
- オートミール 1カップ(タンパク質 6g)
- 豆乳ヨーグルト 230g(タンパク質 9g)
- イチゴ ½カップ(タンパク質 0g)
昼食:
- 全粒粉パン 2切れ(タンパク質 7g)
- フムス(ヒヨコ豆を使用した中東発祥のペースト) 大さじ2(タンパク質 5g)
- 調理済み黒豆 1カップ(タンパク質 14g)
- ホウレンソウ 1カップ(タンパク質 1g)
夕食:
- 堅豆腐 140g(タンパク質 12g)
- 調理済みブロッコリー 1カップ (タンパク質 4g)
- 栄養酵母 大さじ2(タンパク質 6g)
軽食:
- ピーナッツバター 大さじ2(タンパク質 8g)
- リンゴ 1個(タンパク質 0g)
総タンパク質量:72g
*必ず他の食物群を組み入れ、バランスのとれた食事を心がけましょう。すべての必要栄養素を確実に摂取するために、あらゆる食物群を組み入れることが大切です。なお、ここでご紹介したメニューは、一日に必要なタンパク質摂取量を増やす一例に過ぎません。
植物性タンパク質を増やすことで得られる健康上のメリット
植物を中心とした食事に注目が集まっているのは喜ばしいことでしょう。ベジタリアンの食事を実践する人は、糖尿病や心疾患といった慢性疾患のリスクが低いことが示されています。また、ベジタリアンは、低密度リポタンパク質(LDLすなわち悪玉)コレステロール値と血圧値が比較的低めなのが特徴です。ベジタリアンの食事の健康上のメリットは、飽和脂肪とコレステロールの摂取量が少なく、果物、野菜、全粒穀物、ナッツ類、大豆食品、食物繊維、抗酸化物質の摂取量が多いことによる栄養効果と言えるでしょう。
植物性タンパク質を選択することで得られる環境的メリット
食品選びの一つ一つが、私達を取り巻く世界に影響を与えています。例えば、畜産業は温室効果ガスの主な原因となっています。特に牛・羊・山羊などの赤身肉を筆頭とする動物性食品の生産により、植物性タンパク質と比べて温室効果ガスの排出量が多くなります。さらに、これらの動物性タンパク質は、排出量を増やすばかりか、天然資源を大量に消費し、森林破壊、種の絶滅、水質汚染の一因ともなっています。食の選択は、人々の健康はもちろん、地球の健康にも直接影響を与えているわけです。
ベジタリアン初心者のための5つのヒント
肉のタンパク質に代わって植物性タンパク質を摂り始めたばかりの方は、肉を使わない食生活が楽になる以下のヒントをご参考ください。
- 週に一度だけ肉を食べない食事にしてみます。
- お気に入りのレシピを別の食材で代用します。例えば、ひき肉の代わりに緑レンズ豆の他、しっかりした歯ごたえの大豆タンパク質や豆類を使ってみてはいかがでしょう。
- ベジタリアンやヴィーガン向けの料理本やブログをチェックします。このようなメディアは新しいレシピやアイデアを見つけるのに最適です。
- 支援組織や、同じような考えを持つ友人を見つけます。同じ価値観や倫理観を持った人が身近にいれば、ストレスなく楽にベジタリアンの食生活を実践できるようになります。
- また、管理栄養士に相談し、一日に必要な多量栄養素と微量栄養素を十分摂れているかどうかを確認することも大切です。
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