今月は、アメリカでの歯の衛生月間です。毎年この時期に発表される口腔ケアの最新情報を読むのを楽しみにしている者として、この記事では、徹底した口腔衛生を保つ上で重要な8つのヒントをご紹介したいと思います。

歯と全身の健康の関係

口の中には、各自固有のマイクロバイオーム(微生物叢。びせいぶつそう)を持つ独自の生態系があります。マイクロバイオームとは、糖分を消化し、栄養を吸収し、口内を清潔に保つのに役立つ細菌の集合体です。その一方で、虫歯や病変の原因となる病原細菌をはじめ、心血管系、免疫系、筋骨格系などにダメージを与えて全身性炎症を引き起こす細菌など、口内には有害な細菌も存在します。(歯の病気と関節リウマチには関連性があるという話を聞いたことがないでしょうか。これは事実です。詳細は以下の資料をご覧ください)。

口腔内の微生物叢は、摂取した飲食物や薬剤の他、免疫系の健康状態などに大きく左右されます。さらに、歯と歯茎の健康は、栄養素の消化吸収能力や感染症予防力に直接影響します。例えば、歯周病などで口の中に痛みがあると、食物を十分に噛んで栄養を取り入れられなくなることから、長期的な栄養不良につながります。

そのため、全身の健康づくりにこだわるなら、口腔衛生に気を配ることが大切です。そこで、これより口内を健康に保つことで健康全般を維持する方法をご紹介していきましょう。

1. 口の中全体をこまめに磨く

口の中に残ったカスは、悪玉菌にエサとして糖を与え、歯周病の原因となるため、このカスを取り除くために少なくとも1日2回のこまめな歯磨きが推奨されています。できれば、食後(朝食と夕食の後)に、食べかすが歯や歯茎に長時間付着してしまう前に除去するのが理想です。これは、歯垢、食物、細菌を除去する習慣をつけることが、最適な虫歯・歯周病対策の一環となるためです。

私は患者に、できる限り毎食後に歯磨きをするように勧めています。そのために、職場に予備の歯ブラシや旅行用の歯磨き粉、デンタルフロスの容器などを置いておき、昼休みの終わりに洗面所で手早く磨くようにしている方も多いのではないでしょうか。簡単な歯磨きでも、何もしないよりはマシです。せいぜいマウスウォッシュを使う時間しかないという方は、なるべく抗菌ハーブやアルコールが配合された製品を選ぶことで、次に歯磨きするまでの間に口内の細菌を減らすことができます。ただし、このようなマウスウォッシュは、誤って飲み込むと健康に害を及ぼす可能性があるため、お子様の手の届かない場所に保管してください。

手動の歯ブラシや旅行用歯ブラシには、環境に優しい素材を使用した製品を選ぶようにしましょう。その代表として、竹製またはリサイクル素材を使った歯ブラシや天然素材のフロスなどが挙げられます。地球にとって良いことは、私達にとってもプラスになると言えます。

2. 正しい口腔衛生と口のブラッシング方法を身につける

単に歯を磨くのではなく、敢えて「口のブラッシング」としたところがポイントです。細菌は口内のあちこちに生息しているため、口の中全体を磨かなければなりません。口腔衛生習慣を徹底するには、以下の箇所を日常的に(力を入れすぎないように)優しく磨くことが大切です。

  • 歯茎の外側・内側
  • 歯茎と唇の間
  • 唇の裏側
  • 上あごの天井
  • 舌の裏側
  • 舌の表面と側面
  • 歯の表面
  • 歯の裏面
  • 奥歯の噛み合わせ部分

この一連のプロセスは、正しく行えば最低でも2分はかかります。好きな音楽を聴きながら行うのも良いですが、毎回しっかりと歯磨きできるように、十分時間をかけて磨くように心がけましょう。

歯と歯茎の歯垢や汚れを落とすのに最適な歯ブラシの角度は45度です。動画サイトなどを参考にイメージしてみてください。

3. 歯磨き粉を歯につけたまま置く

歯磨き粉の主な目的の一つに、歯の再石灰化があるのをご存知でしょうか。歯とは、要は骨であり、丈夫で健康な歯を保ち、虫歯などの疾患から保護するミネラル基質があります。年齢を重ねても丈夫な歯を保つには、食事や水分はもちろん、歯磨き粉からも、歯に多量のミネラルを供給する必要があります。その一環となるのが、ミネラルを配合した歯磨き粉です。

実は、歯磨き粉は歯を磨いた後も歯に残っていないとその能力を発揮できません。こう聞くと驚く方が多いのではないでしょうか。歯磨きの最後は、誰でも口をゆすいで洗い流すのが普通だと思います。確かに、歯磨き後に唾液と歯磨き粉を大量に口の中に残すのはいけませんが、歯磨き粉をある程度残しておくことで、引き続き歯にミネラルを補給できるのです。歯磨き粉の効果を最大限に引き出すために、週に数回、夜にこの「歯のマスク」法を試してみてはいかがでしょうか。

夜の歯のミネラルマスク法

  1. まず、普段通りのフロスや口腔洗浄器を使用します。 
  2. 次に、歯磨き前に、アルコールまたは抗菌作用のあるハーブを配合したマウスウォッシュで口をゆすいで吐き出します。
  3. 続いて、就寝前の習慣としていつもの歯磨き粉を使い、普通に歯磨きして吐き出します。
  4. さらに、エナメル質を強化するミネラル配合の歯磨き後用のマウスウォッシュでゆすいで吐き出します。
  5. 最後に、ここでミネラルを豊富に含んだ歯磨き粉を歯ブラシにつけてすべての歯の側面を軽くコーティングしたら、ブラシで歯をマッサージするように歯磨き粉をなじませていきます。このプロセスは15秒ほどで終わります。
  6. その後は水分を摂らないようにして就寝します。

週に数回、できれば毎晩寝る前にこの歯のコーティングを行うと良いでしょう。

なお、歯のマスクに使うミネラル入りの歯磨き粉は、無着色・無香料で、カルシウムなどの天然成分を配合した製品を選びましょう。歯を丈夫にすることで知られるミネラルの一種、フッ素が配合されているものがお勧めです。知覚過敏がある方は、専用の歯磨き粉で寝る前に歯をコーティングすると、次第に歯の過敏度が軽減されやすくなります。

4. 水分を補給する

摂取した水分から作られる唾液は、口内にある免疫系の重要な要素です。脱水状態になると口の中が乾燥し、唾液が歯や歯茎のすみずみまで届かなくなることで細菌が増殖し、ダメージを受けやすくなります。その極端な例は、唾液腺を破壊する自己免疫疾患である口腔乾燥症で、虫歯や歯周病を防ぐために特殊な口腔治療が必要となります。

私は、歯周病がない患者を含めて、日中は無糖のお茶やカフェインレスのコーヒーの他、ミネラルウォーターや炭酸水など、糖分を含まない飲料を摂取して水分を補給し、唾液の出を良くするようにアドバイスしています。つい水分補給を忘れがちな方は、携帯電話のアラームをかけてでも習慣づけましょう。そうすることで、歯と歯茎が応えてくれるはずです。

5. 歯のサポートにガムを噛む

キシリトール入りのガムを噛むことで、いわば口内の有害細菌を騙して糖分を消化するように仕向けながら、実際には細菌の増殖を助ける糖がないため、結果的に細菌の数を減らしやすくなります。研究では、キシリトール入りのガムを噛むと、虫歯の数が徐々に減ることがわかっています。食後など、歯磨きの代わりにガムを噛む習慣がある方はキシリトールガムに変えてみましょう。一つ注意したいのは、1日に1~2個以上噛まないことです。キシリトールを摂りすぎると、胃が荒れたり、下痢になることがあります。

6. 糖分の多い食品を控える

ヒトの健康に大きな影響を及ぼす口内細菌の大好物といえば砂糖です。お菓子、アイスクリーム、ケーキ、菓子パン類などを食べる習慣は、目標となる口腔衛生からは程遠いものです。有害細菌を寄せ付けないようにするには、好物の糖分を与えないことが肝心です。そのため、ステビアキシリトールなどの天然甘味料を使った健康的な食品を選ぶか、空腹時にはなるべく塩味のスナックを食べるようにしましょう。

7. 口腔衛生の維持にプロバイオティクスを摂取する

腸内マイクロバイオームは口の中から始まりますが、歯や歯茎の周辺に生息する病原細菌のコロニー(集団)の成長を抑制することで、口内の健康を改善すると考えられるのがプロバイオティクスです。この新たな研究結果を活かすには、週に数回、プロバイオティクスパウダーを口に含んでゆすいでから飲み込む習慣をつけ、そのうち口腔衛生に改善が見られるか確認すると良いでしょう。プロバイオティクスを飲むとお腹がゴロゴロするという方は、飲み込まずに口の中でゆすいで吐き出すだけでも効果があるはずです。ただし、口内炎などの傷がある場合はやめておきましょう。また、プロバイオティクスを取り入れる際は、事前にかかりつけ医にご相談ください。

8. 歯科検診を定期的に受ける

歯科医師と歯科衛生士は家族全員の健康管理に欠かせない存在です。自分に合った歯科医を選び、少なくとも年2回は定期検診やクリーニングを受け、歯周病などを予防しましょう。歯や歯茎のちょっとしたトラブルが大きな問題に発展しないように、歯科医から手術などを勧められた場合は指示に従い、まだ対処可能なうちに早めに処置することが重要です。しばらく歯科医院に行っていない方は、できるだけ早めに予約を入れましょう。ブランクがあった分、定期検診を受ける前に歯石取りなどのクリーニングが必要となることをお忘れなく。歯科医や歯科衛生士は、自分では手の届かない箇所をクリーニングし、外からは見えにくい問題を専用の器具を使って未然に防いで歯の健康を維持してくれるため、歯の問題が他の健康状態に影響を与える心配がなくなります。

このように、今回ご紹介したヒントを参考に口腔衛生を保つことで、全身の健康維持を図ることにもつながります。これこそ理想的な健康管理と言えるのではないでしょうか。

参考文献:

  1. Cocco, Fabio, et al. “The Caries Preventive Effect of 1-Year Use of Low-Dose Xylitol Chewing Gum. A Randomized Placebo-Controlled Clinical Trial in High-Caries-Risk Adults.” Clinical Oral Investigations, vol. 21, no. 9, 16 Mar. 2017, pp. 2733–2740, www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5693987/, 10.1007/s00784-017-2075-5. Accessed 25 Sept. 2021.
  2. “Proper Angle for Brushing Teeth.” Alberta.ca, 2019, myhealth.alberta.ca/Health/pages/conditions.aspx?hwid=zm2559#:~:text=Place%20the%20toothbrush%20at%20a,Do%20not%20scrub.. Accessed 25 Sept. 2021.
  3. Seminario-Amez, M, et al. “Probiotics and Oral Health: A Systematic Review.” Medicina Oral Patología Oral Y Cirugia Bucal, 2017, www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5432076/, 10.4317/medoral.21494. Accessed 25 Sept. 2021.
  4. “Oral and Systemic Health.” Uptodate.com, 2021, www.uptodate.com/contents/oral-and-systemic-health?search=dental%20health&source=search_result&selectedTitle=2~150&usage_type=default&display_rank=2. Accessed 25 Sept. 2021.